抗がん剤を武器として

本日の毎日新聞5面に、乳がんの全身転移に倒れた女性の耳鼻咽喉科医のストーリーが紹介されていた。(といっても作家井上ひさし氏と同じ大きさの記事) 転移が判明してからも、自らつぎつぎと抗癌剤治療に挑みながらプロとしての診療活動を続けた、ポジティブな生き様が綴られていた。ご本人は「抗がん剤を武器にして」勇敢に闘ったと表現されている。本人の亡くなる直前のブログでは、新たな抗がん剤の認可が日本では諸外国に比べて著しく遅いこと(ドラッグ・ラグ問題)を糾弾していたとのこと。そのブログのいくつかのエントリーを読ませていただいた。医師であるが故に個人輸入と処方が可能である薬までも試しておられ、様々な治療で得た情報を公開してくださっており、それらがどんな効果をもたらしたのか、貴重な資料となることであろう。
このように明るく、前向きに戦い続けた姿勢に敬服するばかりである。が、今日の記事は、そのような態度を他の転移癌患者にも奨励するかのような印象を与えかねないのではないかな? ご自分は確かに闘っておられたが、乳がんが転移再発してもなお抗がん剤で体を痛めつけることの是非を問う意見もある。日本の癌治療は効果がはっきりしない(あるいは効かないとわかっている)抗癌剤治療に頼りすぎる、という警鐘もある。抗がん剤を武器にするかどうかは患者ひとりひとりにとって非常に難しい選択だろう。
今回の記事、積極的に抗がん剤で闘われたご本人がお医者さんであるが故に、今日の記事は、抗がん剤利用の促進が足らないという主張について、必要以上に強いメッセージになっていないだろうか? 現在あると言われる「ドラッグ・ラグ」が救えたはずの命を本当に奪っているのか(逆に言えば、その薬は使っていれば本当にその命を救えたのか? 明らかに救える薬なのにいたずらに認可を遅らされただけなのか?)についても、十分に検証されるべきであろう。