水族生化学特論070522Q&A

遅くなりました。

  • レクチンによる微生物糖鎖認識能を増強する物質があるか?

知りません。でも特異性を向上させたり、結合親和性を上げたりする物質があったら面白いですね。きっとありそうなので探してみたら?

  • 糖鎖結合したレクチンに立体構造変化が起ることがあるか?

そのような例はいくつかあります。例えば、MBLやficolin(FCN)のコラーゲン様領域に会合しているプロテアーゼは、それらレクチンの糖鎖リガンドへの結合による何らかの立体構造変化が原因で、前駆体から自己触媒によって活性化型に変化します。

  • MBLとFCNのコラーゲン様構造の違いによって何らかの機能的相違があるか?

MBLのコラーゲン様領域(G-X-Y繰り返し配列)の中央付近には、G-X-Gと繰返し単位の乱れが1カ所あります。このおかげで、MBLのコラーゲン様領域は途中で屈曲していると考えられます。一方、FCNのコラーゲン様領域は乱れの無いG-X-Yリピートです。しかしながら現在のところ、この構造的差異の機能的意味はわかっていません。たとえば、コラーゲン様領域は補体活性化用のセリンプロテアーゼの会合部位でもありますが、MBLとFCNの間で会合するセリンプロテアーゼに差異は見いだされていません。

  • タキレクチン5Aやフィブリノーゲンγは抗体ではないのでY字構造を撮らない。

抗体にはコラーゲン様領域はなく、両レクチンと抗体(イムノグロブリン)は全く異なるファミリーに属するタンパク質です。

  • 補体の参考書

別冊「医学のあゆみ」 動物界における免疫系の進化 名取俊二 編著 医歯薬出版
免疫学の基礎 第4版 小山次郎 東京化学同人
Walport, M. J. 2001. Complement. First of two parts. N. Engl. J. Med. 344: 1058-1066.
Walport, M. J. 2001. Complement. Second of two parts. N. Engl. J. Med. 344: 1140-1144.

  • 癌細胞特異的な糖鎖を認識するレクチンがあるか?

どんな癌細胞にどれくらい特異的か、という問題は残りますが、昔からレクチンの応用として癌細胞の特異的認識は大きく期待されています。
ほんの一例: Kakiuchi M, Okino N, Sueyoshi N, Ichinose S, Omori A, Kawabata S, Yamaguchi K, Ito M. Purification, characterization, and cDNA cloning of alpha-N-acetylgalactosamine-specific lectin from starfish, Asterina pectinifera. Glycobiology. 2002 Feb;12(2):85-94.

  • 遺伝子の水平伝播の意味および植物の遺伝子が動物に伝播して発現した例は?

水平伝播は、異種細菌間の接合やファージ感染で起ることがありますが、高等生物では起り難いと考えられます。ただし、ホヤのセルロース合成やある種のシロアリがセルラーゼを持つことは、水平伝播によると示唆されます。じっさいに何がその遺伝子を運んだのかは特定されていません。
フグで見つかったユリ科植物型レクチンが水平伝播によるかどうかは、まだわからない、と私は思っています。なぜなら、ニジマスなど他の魚種にも同様な配列が見つかり、このレクチンの進化的起原がずっと古い可能性が出て来たからです。

  • 魚は水中に棲むために、他の生物と異なる免疫系やレクチンを持つのか? 魚類にフィコリンが無いことは、他の脊椎動物と比べて、感染する細菌やウイルスが異なることと関係するのか? 

水中に生活することが、陸上とは異なる微生物叢に晒されることとなり、これが魚類にユニークなレクチンを生じさせる進化的なきっかけとなった、というのは誠に魅力的な仮説です。が、証明はなかなか難しいですね。

  • 魚類以外にもFCNを持たない動物は? 魚類にFCNがないと、本来FCNが認識する糖鎖をもつ微生物に対する免疫が弱いのか?あるいは他に代替するものがあるのか?

脊椎動物の中では、まだFCNの存在が証明されていないのは無顎類と軟骨魚類です。また、ホヤ以外の無脊椎動物ではFCNは見つかっていません。ただし、FCNと同様にfibrinogen-likeドメインを含むレクチンは様々な動物で見つかっています。FCNを欠く魚がそれを補償する何か別のレクチン(防御因子)を備えている、というのも、それが見つかれば真実味が増す仮説ですが、まだわかりません。結果的に魚類はしぶとく生きのびていますから、それなりに十分な防御系を備えていることは間違いないでしょうが。

  • GalBLとガレクチンのアミノ酸配列相同性は?

ほとんどありません。両者は互いに全く異なるプロテインファミリーに属します。糖鎖特異性だけではレクチンのタンパク質としての実体を表現できません。

  • フィコリン、MBLなどのレクチン研究の将来への応用

両者の遺伝子型(genotype)と各種疾患のリスクとの関連が盛んに調べられています。感染症に対するリスク評価やテイラーメイド医療への応用が考えられているのかもしれません。

  • レクチンのリガンドは糖鎖だけか?

糖以外のリガンドもあるようです。こんな論文があります。
Komath SS, Kavitha M, Swamy MJ. Beyond carbohydrate binding: new directions in plant lectin research. Org. Biomol. Chem., 2006; 4: 973 - 988.
Gabius HJ. Non-carbohydrate binding partners/domains of animal lectins. Int J Biochem. 1994 Apr;26(4):469-77.
また、アミノ酸配列はC-typeレクチン様であっても糖鎖にまったく結合性の無いレクチンもあります。