魚類免疫学070606Q&A

  • MHC class I以外に、class II の構造の違いによっても移植片の不適合が起こるか? MHCの適合度はどのように調べられるか?

起こります。MHCの適合度は、MHCの遺伝子配列の決定あるいは他の簡便な方法(PCRなど)によってMHCの遺伝子型を比較することによって調べられます。

  • 移植片の拒絶反応が移植後しばらくしてから起こるのはなぜか?

移植片を最終的に拒絶するのは、キラーT細胞です。細胞性の獲得免疫応答が起きるためには、何日間かの時間が必要なので、すぐには拒絶されません。

  • APC (Antigen-Presenting Cell)とは何か?抗原を提示する細胞とはある意味で抗原(病原体)によって感染された細胞か?

狭い意味でのAPCは、抗原である異物を細胞内に積極的に取り込み、その抗原を分解してMHCクラスII分子によって細胞表面に提示する能力をもった細胞です。通常は、樹状細胞、単球、マクロファージ、B細胞が抗原提示細胞として機能できます。これらの細胞は抗原(病原体)に侵入され、細胞内でその増殖を許しているわけではないので、感染されたのではありません。

  • MHCとTCRの構造が類似しているのはなぜか?

両者ともにIg superfamilyに属するタンパク質なので、タンパク質の折りたたみパターンは似ています。が、実際にアミノ酸配列はかなり異なります。また、TCRには、MHCのようなαヘリックスが平行に並んだ溝構造はありません。

  • MHCがautoでなくalloの場合の反応

抗体やNK細胞が非自己と認識して攻撃します。

  • 異種移植の利点と欠点は? なぜブタの臓器か?

利点:細胞性の免疫応答を起こさず、ヒト−ヒト間の移植で問題になるMHCの不適合による拒絶反応がない。また、ヒトの臓器を融通し合うという倫理的な問題も回避でき、MHC適合臓器の供給不足も解決される。(ついでに、ヒトの臓器を必要としなくなれば脳死を死とする必要もなくなる?)
欠点:自然抗体と補体による超急性の激しい拒絶反応が起こる。現在の研究は、この反応をいかに抑制するかに注力している。たとえば、自然抗体に認識される抗原糖鎖を作らなくしたり、補体が少しくらい活性化されても、その活性化を抑制するような分子を臓器表面に発現させておく、などです。これらはすべてトランスジェニック技術によって達成されています。でもまだまだ実用化には至っていません。
なぜブタか?:まず、臓器のサイズがちょうど良い。ヒトと共通の感染症を持たない。

  • 放射線を当てるとリンパ球を造血できなくなる。一方で、(広島・長崎の原爆のように)放射線曝露によって白血病(白血球が無限に制御無く増殖する)になる。これらのメカニズムはどのようになっているのか?

比較的低線量の被爆では、DNAに変異が起こって(遺伝子に一部傷がついて)細胞ががん化するのに対し、高線量の被爆では、いっさいに正常な遺伝子機能を担えないほどDNAが傷ついて(染色体が切断されたり、ランダムに癒合してしまったりなど)細胞が死にます。骨髄にある造血幹細胞のように活発に増殖する細胞ほど、放射線に対して高い感受性を示します。(このような性質をガンの治療にも応用しています。)

  • T細胞による抗原認識のプリント下の図中にあるMHC-Iについた「β」って何? 

これは確かにわかりにくい図でしたね。βと示されていたのは、β2ミクログロブリンの略です。Ig superfamilyに属する小さなタンパク質で、MHC class Iと会合し、その構造を支えています。

  • 多形(polymorphism)とは?対立遺伝子の種類が多いこと?

そうです。たくさんの対立遺伝子が存在するほど、多形性が高いと表現します。たとえば、ABO血液型の対立遺伝子はA、B、Oの3種だけですが、もしこれにCとかDとかさらに他の対立遺伝子があったら、それだけ多形性が高くなる訳です。MHCは非常に多形性の高い分子です。それだけ、人によって(個体によって)MHCの遺伝子型が異なる可能性が圧倒的に高く、拒絶されないで移植片が生着する可能性が非常に低くなるわけです。

  • MHC class Iよりもclass IIの方が多形性が高い?

どちらも同程度に高い多形性を示します。また多形性の度合いは、動物種によっても異なります。

  • MHC class II分子中の、抗原ペプチドと相互作用する部位のアミノ酸配列から、提示しやすい抗原の構造がわかるのか?

ある程度はわかるそうです。

  • 抗原ペプチドがMHCと結合していないとTCRによって認識されないのはなぜか?

現在調査中。もう少しTCRの抗原認識部位の立体構造を調べるとわかるでしょう。

  • TCRによる抗原認識が自己のMHCであることに制約される意味は?(自己以外のMHCが体内に侵入することは自然にはあり得ない。)

免疫系にとって、あるいは宿主にとってどんな利点があるか、という問いならば、答えはよくわからないですね。ただし、この点は免疫系が同種内でも自己と非自己を見分ける意義にも関係します。