議論の時間差

本日の毎日新聞の「発信箱」より。(この種の記事がいずれ消えることを考慮して、全文引用させていただく。もし問題があればご教示下さい。なお、太字強調は中尾による。)

抵抗力=磯崎由美(生活報道センター)

 新型インフルエンザが国内で急速に広がるにつれ、行き過ぎではないかと思える対応も目立つようになった。

 北九州市教委は関西方面の修学旅行から戻った中学生と教職員を1週間出席・出勤停止にしている。19日までに対象となったのは14校の1600人以上。これに対し、兵庫県井戸敏三知事が「風評被害を助長しかねない」と不快感をあらわにした。

 確かに関西を訪問しただけで行動を制限する必要があるのなら、関西人は地元から出てはいけないということになる。それでも北九州市教委は「批判は承知しているが、万が一感染が広がれば大変。対応は適切だ」との考えを崩さない。市民からは「旅行から戻った生徒だけでは甘い。家族にも外出を自粛させるべきだ」といった声まで寄せられているという。

 弱毒性だが感染力が強い。想定外だった新型インフルエンザが浮かび上がらせたのは、ウイルス自体の問題よりも社会の抵抗力の弱さだった。成田空港で大阪府立高の生徒らの感染が分かった時も「治療費を税金でまかなうのはおかしい」「感染者の氏名を発表しろ」といった抗議や中傷が相次ぎ、府教委は電話がパンク状態に陥った。

 病原菌との長い闘いの中で、人間は何度も差別や過剰反応といった過ちを繰り返してきた。どれだけ科学や情報網が発達しても、感染症の広がりを前にすると、不安を制御できなくなってしまうものなのだろうか。

 ウイルスはいつ毒性の強いものに変異するか分からない。いくら大臣が「冷静に」と繰り返しても、人は動揺し、対応を誤ることがある。それが今回与えられた最も大きな教訓になるのかもしれない。

ハンセン氏病における差別問題と相似とは言えまいか。

同日同紙の「視点・新型インフル」にも真っ当で冷静な見解がある。(これも全文コピペさせてください。)

◇早期治療こそ公の責任−−元仙台検疫所長の岩崎恵美子・仙台市副市長の話
 感染症の専門家として「水際対策に期待するのは間違い」と言わざるを得ない。ウイルスは人について動くのだから、鎖国しない限り、完全には防げないからだ。

 今回はゴールデンウイークの人が動く時期に海外から入ってきたと推測される。症状の出なかった人もいれば、従来型のインフルエンザと診断されて治療を受けた人もいるはずで、実際の患者数は現状の数倍はいるだろう。

 より本質的な問題は、症状が出た場合にいかに早期に治療するかという医療体制整備だ。仙台市は、水際では防げず、流行は起きるのだという前提で現実的な対策を練ってきた。流行発生時には患者が殺到するため、発熱外来は機能しない。だから通常のインフルエンザと同様に開業医らに治療を担当してもらう。2年をかけて医師会の理解と協力を得てきた。

 流行は防ぎきれないが、きちんと治療をすれば治るのだから過度に心配することはない。かかってしまったらすぐに治療を受け、会社や学校を休んで治すこと。「人にうつさないことは公の責任である」という意識を育てなければならない。【聞き手・高橋宗男】

こんな話しは2週間前には聞こえてこなかった。専門家として「ほら言わんこっちゃない」と今頃教えてくれるのはちょっとズルイとも思うが、当時こんなことをとても口にできるムードではなかったと容易に想像できる。マスコミにも、こんな意見に耳を傾けて報道する気は全くなかっただろう。ずっと煽動的な見解ばかりを偏った態度で伝えてきたと思う。でも、マスコミ報道の性として、ある程度、このような報道内容・コメントの経時変化は仕方ないとは思う。
今、やっといろいろ正論が聞こえてくる時である。報道初期の内容は個人的にはほとんどまともには取り合わないことをモットーとしているが、それはやはりそれほど間違っていなかったと思う。

それにしても、成田でコテコテの「水際作戦」が行われ、その網にかかって缶詰をくらった人々はどんな気持ちだろう。あの措置には、少しでも流行を遅らせる、時間稼ぎほどの意味(効果)が僅かでもあったのだろうか。社会の予行演習として仕方がなかったのだろうが、ならばその効果をこれから検証するべき。でも比較対照があるのかな?