石坂公成博士の言葉

石坂博士は、アレルギーを媒介する抗体として知られるIgEの発見者として著名な免疫学者である。2000年発行の日本免疫学会ニュースレターに「プロの研究者の育成を真剣に考えよ」というコラムを寄稿しておられる。アメリカのPhD育成システムと比較して日本の大学院が一人前の独立したPhDを育てる仕組みをきちんと整備しているか?を問う内容である。その中に、

 われわれのコースでは,学生がすべての講義と試験を終えて自分の指導教官について実験を始めた後,生化学者や分子生物学者を含む数人の教授による口頭試問を行っていた.この試験の目的は,その学生がPhDをとってプロの研究者になり得るかどうかを判定するためである.講義の内容は覚えており,器用に実験をしていても,自分が何をしているかわからないで実験しているような学生はマスターで放り出してしまう.研究者たるものは,何故キットが働くか知らないでそれを使うべきではないし,自分が追求している蛋白をSDS-PAGE で検出するためには,どの程度の蛋白量が必要かを知ったうえで実験を組まなければならない.われわれは,そのようなことが,independentの研究者になるためには大切なことだと信じていたので,一人ひとりの学生をしごいて,それについてこれない人には辞めてもらったのである.

という段落があったのを思い出した。特に分子生物学の実験ではキットを使う場面が多い。ここのところいろんな学生の修論を読んでみて、この当たりが大丈夫かな?と感じることがままあった。これはひとえに教員側の教育態度の問題であり、便利さと裏腹に重要なことが見過ごされがちになることに注意し、いつも自らが「何をやっているのか」を意識しながら研究させる努力を怠ってはならない、と改めて自戒する機会になった。
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