科学者も身にかかった火の粉は払って戦わなければならないらしい

復興予算の流用とやり玉に挙げられた、研究への流用を必死に説明しておられる(朝日新聞7月20日朝刊「私の視点」)。ウミガメを数えること自体が重要な研究手段であることは十分に理解される。おそらく問題視されたのは「関係のない事業に」という部分だと思う。この問題も、この手の補助金利用には、そもそも明らかに関係ないとわかるような申請が通るはずもなく、なんらかの論が張られて認められたのだと想像する。とすれば、やはり程度問題、ということであろう。この文章でその「関係があること」、つまりこの鹿児島県での事業が「被災地支援」の一環であることがどれほど伝わるであろうか…
それにしても、このように研究者自らが名乗りでて表通りで意見を述べることは重要だと思う。

6月3日付朝刊に、東日本大震災の復興予算の流用に関連して、「ウミガメ数えただけ」という見出しの記事が掲載された。被災者雇用のための予算を、関係のない事業に流用することを問題視する記事の趣旨には賛同する。だが、ウミガメの研究者として、指摘しておきたいことがある。
 世界の海にいるウミガメ類は、1種を除いた残る6種全てが国際自然保護連合レッドリスト絶滅危惧種に指定されている。数十年前から世界各地の産卵場で保護研究活動が展開され、卵を安全な1カ所に移し、効率よく孵化(ふか)させて海に放す活動が進められた。
 ところが研究が進み、ウミガメは産み落とされた時には性別が決まっておらず、孵化期に経験する砂中温度によって雄雌が決まることが明らかになった。孵化率を上げるべく、日当たりの良い場所に卵を移植してしまうと、本来あるべき性比から大きく外れて雌に偏ってしまう危険性が生じる。
 記事では鹿児島県の屋久島で雇用された男性が「数えただけで、安全な場所に卵を移すようなことは求められなかった」と話していた。しかし、卵を移植しない方が良い状況もあるのだ。ウミガメを数えることで、増減を正確に把握できるし、産卵場の監視にもなり保護につながる。それが、無意味な活動というニュアンスで読者に伝わってしまったのが残念だ。
 また、被災地の東北と南日本で産卵するウミガメの関係も知って欲しい。私たちは2005年から岩手県大槌町周辺で定置網に混獲されるウミガメを数えてきた。毎年夏になると、成熟する前のアカウミガメとアオウミガメが、エサを求めて東北沿岸海域に相当数来遊してくることが分かった。
 産卵場では、上陸してくる雌成体や孵化幼体のことしか分からない。一方、東北地方では未成熟個体や雄を調べられる。さらに私たちは甲羅にカメラを付け、「浦島太郎の視点」で水中の生態を調べている。レジ袋に遭遇したアカウミガメがじっくりと見定めてから華麗にやり過ごす様子が観察できた。世間には、プラスチックゴミを食べて死亡するために絶滅の危機にひんしているという話があるが実態はそう単純ではなかった。
 ウミガメが青春時代を過ごす大槌の海で調査することで、彼らの奥深い生態とそれを取り巻く環境がよく理解できる。我々の視野は広がり、健全な海を守ることにもつながる。東北で放流する亜成体には個体識別用の標識も付けている。いずれ南日本の砂浜に産卵上陸するはずだ。いつか来るはずのその日を心待ちに、ウミガメを数え続けたい。
 (さとうかつふみ 東京大学大気海洋研究所准教授)

朝日新聞6月3日の記事

ウミガメ数えただけ・ご当地アイドル経費 止まらぬ復興予算流用
東日本大震災の被災地では再建が遅れているのに、復興予算の流用が止まらない。安倍政権の対応も後手に回り、今も放置されている状態だ。 
 白浜沿いの道路に「ウミガメ上陸 日本一」の看板が立つ。被災地から遠く離れた鹿児島県屋久島町にある「いなか浜」で、なぜか復興予算が使われた。
 鹿児島県は昨年、ウミガメの保護監視のために約300万円を使った。10人を雇い、浜に上がるウミガメを数えたり観光客にマナー向上を呼びかけたりした。
 お金は、厚生労働省の「震災等緊急雇用対応事業」から出ている。被災者の雇用支援などのために復興予算から2千億円がつき、47都道府県が運営する雇用対策基金に配られた。
 だが、屋久島町では呼びかけはしたものの、被災者の応募はなかった。町の担当者は「島に被災者がいたかどうかもわからない」と言う。雇われた男性(50代)は「ウミガメを数えただけで、安全な場所に卵を移すようなことは求められなかった。被災者どころか、ウミガメのためにもなっていない」とあきれる。

ところで、九大では昨年8月に教職員の給与が5〜9%減額されたが(私は約9%減T_T)、あれは確か震災復興対応のために大学への運営交付金が減額されたため、と説明されていた気がする。とにかく復興予算は真に有効に使ってほしいものである。